八木少将考察

狂四郎2030に登場するキャラクター、八木少将。最初に出てきた悪役にもかかわらず、すさまじい存在感を放っていたため印象に残った人も多いと思います。

 

2030年下の日本で来るべき第四次世界大戦のために遺伝子操作を受けて誕生し、完璧な人間として軍隊に圧倒的なカリスマを誇っているという設定ですが…

キャラクター造形は複雑そのもの。

 

まず、彼は善人なのか悪人なのか? これは少将のキャラクターを考えるうえで重要なことなのではないでしょうか。

彼はおそらく、「これがいいことか、悪いことか?」などと考えながら行動しては居ないと思います。強いて言うなら、自分のしたことは全部正しいと思っている。

八木少将は自分が最も素晴らしい人間だということを信じて疑っていなくて、だから多分、彼にとっては「人を助けること」も「人を殺すこと」も全部「自分のしたこと」であるという点において等しく正義なんです。

そして少将は大臣のような薄汚い、こすっズルい人間が嫌いです(赤堀に関しては、嫌いを通り越し、呆れて苦笑しているシーンも多々ありますが)

彼の中では、自分は常に慈愛と正義を重んじる、完璧なヒーローでなくてはありません。

八木少将が表情を引きつらせて『ひくひく』という効果音を出してるのは、決まって“素晴らしい自分という存在が肯定出来なくなったとき”です。
少将が最も軽蔑するのは『肉欲だけで女を抱く下劣な人間』や、『君(ユリカ)を幸せに』できない人間であって、自分がそうなりつつある!とユリカに突きつけられるたびに『ひくひく』と顔が痙攣する。

では、印象的な、ユリカをレイプ→犯罪者の中に放り投げて→犯罪者を皆殺し、という一連の流れのあと、なぜ少将は爽やかに笑っていたのか?

それは、少将の中ではレイプは“ユリカと自分が結ばれる”行為であり、犯罪者たちに投げ込んだユリカから「助けて!」と叫ばれることで“ユリカから必要とされ”“ユリカを助けた”、ヒーローのような自分のあるべき姿に戻ったから。
だからあんなに爽やかなのではないかなと思います。

そう考えると、ユリカが助けを求めないことで顔面が痙攣し、「早く『助けて』って言えよ…」と焦ったようにせがんだのも納得がいくような。
(ユリカを助けないと自分はただの悪者になるので)

“完璧な自分”に戻った少将は初期と同じにこやかな笑顔でユリカと接しますが、その完璧さは自分が一生懸命に取り繕ったものだから、笑顔も歪んでいる。

彼が自分の行為=正しいと思っているのは、あのマンガの背景的に仕方ないことのような気もします。わずか17歳で重い責任を背負わされ、『決して失敗なんかしないロボット』として扱われ、作戦がことごとく成功すればそう思っても仕方ないでしょう。

 

こうまで完璧さを求めた彼ですが、ところどころ弱い部分も残っていて、自分がどんどんヒーローから外れて化け物になっていくのを感じているのがまた切ないですね。

そういう身の内に矛盾を抱えて、のたうちまわりながら生きているのが人気の秘訣かもしれません。